じゃっきん、と音がした。
今までに聞いたことのない、とても硬い花の茎をハサミで切るときの音を、もっと大げさにしたような――いたたまれない音。
振り向いてみれば、後ろに並んでいたスーツ姿の男がゆっくりと前屈みになって、倒れていく。男には、頭がなかった。倒れた首元から、今ようやく自分がされたことに気がついたようにどす黒い血が飛んだ。
足もとに血だまりができていく。音もなく追いつめてくる、よからぬもののように。頭の中で不快な金属音の割れるような音が響く。不協和音。ああ、殺されるんだろうか。
顔を上げても、恐る恐る見回してみても誰もいない。誰だ。誰か、いるんだろう。
目を覚まして、悲鳴をあげそうになった。視界に広がるのは、青空。白い雲がのんびりと流れていく。背中には土の感覚。眠気を誘うような香りが思考を曖昧にする。ラベンダーの花畑の中に埋もれて、ぼくは眠っていたらしい。どうして、こんなところにいるんだ。昨日のことを思い出そうとすると、頭が痛くてよくわからない。家に戻った覚えはなかった。つまり―――いや、つまりなんてのは、もっと情報があるときに使う言葉だ。記憶の最後は何だったか?
起き上がると、花畑の向こうに白いワンピースを着た少女が立っていた。花を脇で抱えた籠に摘み取っていく。ハープの弦のような金髪の髪がさらさらと揺れている。彼女はぼくに気がついて、そして笑ったのだ。口角を奇妙に高く上げて、真っ白な犬歯が歯茎まで見えた。背筋が急に氷を押しつけられたように縮んだ。とっさに立ち上がると、その場から逃げるように駆けだした。スーツを着たまま寝ていたらしいぼくは、頭を掻きむしろうとした。すると、手は宙を舞った。
ぼくには、頭がなかった。
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今までに聞いたことのない、とても硬い花の茎をハサミで切るときの音を、もっと大げさにしたような――いたたまれない音。
振り向いてみれば、後ろに並んでいたスーツ姿の男がゆっくりと前屈みになって、倒れていく。男には、頭がなかった。倒れた首元から、今ようやく自分がされたことに気がついたようにどす黒い血が飛んだ。
足もとに血だまりができていく。音もなく追いつめてくる、よからぬもののように。頭の中で不快な金属音の割れるような音が響く。不協和音。ああ、殺されるんだろうか。
顔を上げても、恐る恐る見回してみても誰もいない。誰だ。誰か、いるんだろう。
目を覚まして、悲鳴をあげそうになった。視界に広がるのは、青空。白い雲がのんびりと流れていく。背中には土の感覚。眠気を誘うような香りが思考を曖昧にする。ラベンダーの花畑の中に埋もれて、ぼくは眠っていたらしい。どうして、こんなところにいるんだ。昨日のことを思い出そうとすると、頭が痛くてよくわからない。家に戻った覚えはなかった。つまり―――いや、つまりなんてのは、もっと情報があるときに使う言葉だ。記憶の最後は何だったか?
起き上がると、花畑の向こうに白いワンピースを着た少女が立っていた。花を脇で抱えた籠に摘み取っていく。ハープの弦のような金髪の髪がさらさらと揺れている。彼女はぼくに気がついて、そして笑ったのだ。口角を奇妙に高く上げて、真っ白な犬歯が歯茎まで見えた。背筋が急に氷を押しつけられたように縮んだ。とっさに立ち上がると、その場から逃げるように駆けだした。スーツを着たまま寝ていたらしいぼくは、頭を掻きむしろうとした。すると、手は宙を舞った。
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